研究概要 |
BINAPは優れた不斉環境を持つことから触媒化学および材料化学へのさらなる応用が期待され,誘導化が検討されている。しかしこれまでBINAP誘導体合成の出発物質となるハロゲン化BINAPの報告例は少なく、これまでKantやLemaireらにより報告された臭素化物があるがこれら臭素化物は遷移金属を用いた触媒反応に対して反応性が低い。我々は臭素化物に比べ以後の誘導化が容易な新規5,5'-ジヨードBINAPジオキシドの簡易合成を達成した。5,5'-ジヨードBINAPジオキシドを出発物質として、パラジウム触媒を用いた5,5'-ジヨードBINAPジオキシドとジアリールアセチレン類との環化クロスカップリング反応,さらに続く還元によりBINAPのビナフチル骨格をビアセナフチル骨格に変換した新規軸不斉ビスホスフィン配位子の合成を達成した。合成したBINAPビアセナフチル配位子を用い、ロジウム触媒によるシクロヘキセノンへのフェニルボロン酸の不斉1,4-付加反応について検討を行った。その結果、相当するフェニル付加体を86%収率、97%eeで得た。この結果は、BINAPを不斉配位子として用いた結果ほぼ同様であるが、配位子そのものがオレンジ色に着色していることから視覚的利便性を有し、金属の配位による色調の変化を示す。さらにこのテトラフェニルビアセナフチルビスホスフィン配位子合成に加え、フェニル基のパラ位にブロモ基、トリフルオロメチル基を導入した誘導体の合成にも成功した。特に、4-ブロモフェニル基を有したビアセナフチルビスホスフィンオキシドは、クロスカップリング反応により、さらなる誘導化が可能になることから、興味深い展開が期待できる。一方、アセナフチル骨格合成を検討時、用いる末端アセチレン誘導体の反応量をコントロールすることにより、アセチレンが2分子挿入して得られたオクタフェニルビフェナントレンビスホスフィンオキシドも得られた。これらの配位子合成は有機ポリマーおよび無機ポリマーへの担持により反応中の脱離による劣化が肉眼で認識でき実用的工業的用途への展開が期待できる。
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