研究概要 |
従来の缶飲料加熱装置は缶飲料を加温状態で販売しているため, 売れるまでの間保温が継続され膨大なエネルギーを浪費するだけでなく, 賞味期限の激減による商品価値の低下の問題をはらんでいる。そこで本研究では, 缶飲料の加熱装置を従来の抵抗加熱方式から誘導加熱方式へ改良し, 諸問題の解決を試みた。 まず缶側面に巻線を配置した加熱装置を検討し, 磁場解析と試作装置による実験から340mlの飲料缶を飲み頃温度である55℃まで90%以上の高い効率で加熱できることが確認された。しかし, 缶の上下間において35℃程度の加熱ムラが生じることや, 約50秒の加熱時間を要するといった実用上の問題が現れてきた。そこで加熱ムラの抑制や加熱時間の短縮, 更なる加熱効率の改善を主たる課題として検討した。 1. 加熱ムラの抑制 当初, 巻線を缶側面にのみ配置する構造を検討していたが, 缶下部の加熱効果が不足していたため加熱ムラが生じた。また缶下部で温められた飲料が対流によって缶上部へ移動することも缶下部が加熱されにくい要因であった。そこで缶の各部の渦電流密度をMaxwell-SV(Ansoft)によって磁場解析を行い, 加熱効果のシミュレーションを行った。それによると, 缶下部の渦電流密度が缶中央に比べ低下していることが確認され, このことが加熱ムラに影響を及ぼすため, 渦電流密度の低下を抑制する巻線配置を2通り提案した。特に缶下部の加熱を重視した巻線構造に改良することにより, 缶下部の渦電流密度が缶側面や上面を上回る特性が磁場解析によって確認された。この結果を基に装置を作製し実験を行ったところ, 従来36℃であった缶上下間の温度差が, 10℃まで低減され加熱ムラの抑制が実現された。 2. 加熱時間の短縮 単相100V系統の電源容量の制約から注入電力を1.5kWに制限すると, 340ml缶を55℃まで加熱するのに約50秒の時間を要した。そこで単相3線式200V系統を想定し3kWを上限として加熱時間の短縮効果を測定した。その結果, 注入電力の増加に伴い加熱時間は緩やかに減少し, 2kWで30秒, 2.5kWで23秒まで短縮されることが確認された。しかし注入電力と加熱時間の間には反比例の関係があり, 既に飽和域に達していることから, これ以上電力を増加させても加熱時間の著しい短縮は期待できないことが分かった。 3. 加熱効率の改善 更なる効率改善を図るため, インバータの制御方式やボビンの形状, リッツ線の並列導線数について見直しを行った。並列導線数を増加させ巻線抵抗を1/3まで減らし励磁周波数を50kHz程度まで高めることによって, 効率が2~3%改善されることが確認された。 このようにして, 本研究では実用化を考慮した改良を試み, 加熱ムラを従来の36℃から10℃へ, 加熱時間を50秒から23秒へ, 加熱効率を2~3%改善することができた。本研究により十分に製品化できるレベルまで到達させることができた。
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