研究概要 |
Noonan症候群と類縁疾患は特徴的な顔貌、心疾患、骨格の異常、精神遅滞を主徴とする先天奇形症候群である。申請者らは最近、Costello症候群が、これまで癌遺伝子としてよく知られていたHRAS遺伝子の変異によるシグナル伝達異常症であることを世界に先駆けて報告した(Aoki, et. al. Nature Genetics 37:1038-1040,2005)。さらにcardio-facio-cutaneous(CFC)症候群の原因が同じシグナル伝達上の分子であるKRASとBRAFであることを明らかにした(Niihori, et. al. Nature Genetics 38:294-6,2006)。本研究はNoonan・Costello・CFC症候群3疾患の患者の原因遺伝子6個の網羅的遺伝子解析を行い、その分子診断結果と詳細な臨床的検討を元に疾患概念を再構築することを目的とした。 Noonan症候群50人、Costello症候群35人、CFC症候群59人においてPTPN11, HRAS, KRAS, BRAF, MEK1/2全6遺伝子をシークエンスしたところ、遺伝子診断率はNoonan症候群でPTPN11=42%、Costello症候群でHRAS=57%、CFC症候群でKRAS, BRAF, MEK1/2=61%であった。HRAS陰性のCostello症候群には非典型例が存在し、Costello症候群典型例でのHRAS陽性率は80%であった。分子診断によって初期診断が覆される例も存在したが、臨床症状の再検討によっても、分子診断から得られる診断に合致しないと考えられる症例も存在した。これら3疾患は疾患により腫瘍合併頻度や腫瘍発生部位が異なるため遺伝子診断は有用であるが、その臨床的・遺伝学的重複を考慮して診断と治療方針を決定していく必要があると考えた。
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