研究課題
基盤研究(C)
気分安定薬、とりわけリチウムの作用機序と脳内細胞内イノシトールの枯渇の関連に注目し、主にモデルマウスを用いた解析を行った。具体的には、IMPase(myo-inositol monophosphatase)をコードする二つの遺伝子Impa1, Impa2の機能欠損マウスの表現型を観察した。IMPaseはリチウムの直接の標的であると想定されている酵素であり、実際in vitroでImpa1, Impa2タンパク質の酵素活性はリチウムにより阻害される(Ohnishi et al. JBC, 2007など)。Impa1 機能欠損ホモマウスは、ほとんどが出産直前あるいは出産直後に死亡したが、下あごの形成不全や胸骨-肋骨接合部の非対称性、心臓の低形成といった極めて特徴的な表現型が現れ、少なくとも胎生期においてはImpa1によってイノシトールモノリン酸から供給されるイノシトールが、胎児の正常な発生に必須の役割を果たすことが証明された。一方、Impa2 KOマウスは一見正常に成育し、発生学上の異常を見いだすことは出来なかった。さらに、各種行動試験においても際だった異常を示さなかった。これらの結果やいくつかの状況証拠から、少なくとも発生期においてImpa2経路は主要なイノシトール合成経路ではなく, Impa1経路が重要であると予測された。Impa1 機能欠損マウスに関しては、妊娠期に母親の飲み水にイノシトールを供給(離乳時まで)すれば、その致死性の大部分を回避できた。そこで、イノシトールレスキューマウスを用いて各種行動試験を行ったところ、ホモマウスは対照マウスと比較して顕著な過活動性を示した。このことは、脳内イノシトールの不足が躁様行動変化につながる事を示しており、さらにはリチウムの(抗躁ではなく)抗鬱作用には、Impa1の酵素活性抑制が関与している可能性が考えられた。
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http://molpsych.brain.riken.jp/