研究概要 |
自殺遺伝子(herpes simplex virus (Hsv) thymidine kinase(tk))を持った細胞(effector cell)の周辺に存在する自殺遺伝子を持たない細胞(bystander cell)もprodrug(ganciclovil : GCV)の投与によって死滅する効果、すなわちbystander効果を利用して骨髄間質細胞をvectorとして用いる悪性脳腫瘍の治療が可能であるかについて研究した。Hsv-tk遺伝子を骨髄間質細胞(MSCs)に導入し、glioma細胞と異なる比率で一緒に培養し、培養液中にpro-drugであるganciclovir (GCV)を異なる濃度で混入すると、Hsv-tkを持たないglioma細胞も死滅するか、すなわちin vitroでのbystander効果があるか検討した。免疫染色と核染色を行いHsv-tk遺伝子を持たないglioma細胞核にapoptosisによる核変化を認め形態的にbystander効果を認めた。また、9L/LacZ glioma細胞の持つβ-galactosidase活性を測定し、Hsv-tk遺伝子を持つMSC細胞の比率が高いほど、またGCV濃度が高いほどglioma細胞の生存率が低下することを認め、定量的にもbystander効果の存在を証明した。この研究結果に基づき、in vivoでRatのgliomaモデルを作成し、Hsv-tk導入したMSCsを移植しGCVを投与し、脳腫瘍の治療ができるかについて検討した。F344/N Slc Fisher Ratをハロセン麻酔下にて頭蓋骨に小開頭を作製し、1×10^5個の9L/LacZglioma細胞を5×10^4個のHsv-tk導入(MSCs/tk(+)群, N=7)または非導入(MSCs/tk(-)群, N=7)のMSCsと一緒に大脳基底核部に移植した。またcontrol群として1×10^5個の9L/LacZのみを移植した(N=7)。GCV 100mg/Kgを7日間連続腹腔内投与した。Day 7, 14, 21にMRにて造影剤を投与して腫瘍体積を測定した。また、生存日数を比較した。その結果Day 14及び21にてMSCs/tk(+)群では有意に他の2群に比べて腫瘍体積の縮小を認めると共に(p<0.05)、Kaplan-Meier解析にて有意に他の2群に比べ生存日数の延長をみとめた(log-ranktest : p<0.001)。以上より、自家骨髄間質細胞をvector細胞として用いてHsv-tkを導入し、それを脳腫瘍内に注入しGCVを投与することによるbystander効果を利用した悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療が可能であることが示唆された。
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