研究概要 |
本研究は、科学研究にもとづく発明を新事業に結びつける過程で、知的財産がどのようなメカニズムでどのような役割を果たすかを、国際間連携を視野に入れて探求することを目的とする。アメリカで科学研究を新規事業に結び付けるのは、高度に専門化した専業企業とそれを開発段階から受け継ぐ大手企業、強力な保護と開放を使い分ける知財戦略にあると考える。パルアルトでのヒアリングでは、ライフサイエンス、ナノバイオなどの科学研究が、大学や企業研究者、大学発ベンチャーによりネット等を経由して国際間で行われるのが見受けられた。成熟したメガファームの元役員によると、アメリカでは成熟大手企業は、専業企業の知的財産を世界中で探索し、取引関係を結ぶか買収することによりイノベーションを継続させる。また、専業企業や企業研究所、大学の研究者コミュニティ内では人の移動が多いが、それは研究者のレベルアップをもたらすだけでない。Appleyard, M.M.(1996)によると、研究者移動が移動先企業と元の企業との取引関係を円滑化させている、という。ただし、組織を超えた知識共有は、Appleyard, M.M.(1996)によると、ラボノートの確立が大きく貢献する。また、企業ヒアリングによると、研究者のコミュニティ内での自由な移動・知識共有と、知的財産権とは、また別の問題である。知的財産については組織としてのコントロールがきわめて強い。共同研究についても、権利を一箇所に集中させて権利行使可能性を確保する。またライフサイエンス分野では細胞そのものに特許性があるなど、制度面でも保護範囲が広い。一方、IT分野など、コンソーシアムで共同研究を行う際には発明者帰属組織に権利を集中させるとともにチーム内で無償実施を確保したり、大学の科学研究には間接的な貢献にも報いるなど、協力体制つくりも巧みである。
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