研究概要 |
本研究は,細胞の足場である焦点接着斑と基質との間に生じる力を計測しつつ,それぞれの焦点接着斑部位に力学刺激を負荷できる細胞培養デバイスを開発することを目的として,2年間の研究を進め,下記の成果を得ることができた. 1. 磁性粒子混入型マイクロピラーデバイス開発手法の確立:フォトリソグラフィによる微細加工技術を適用し,直径2〜3μm,深さ9μmの微細孔が並んだ鋳型を作製した.そして,平均直径約1.5μmの鉄粉をPDMS(polydimethylsiloxane)溶液中に混入して鋳型に流し込んだ後,遠心力および磁力によって磁性粒子を鋳型底面に沈めさた.引き続きPDMSを加熱硬化して,表面近傍のみ磁性体が入った弾性マイクロピラーを作製する条件を見いだした.このピラーの周囲に磁場を形成することにより,磁力線の方向に沿って,特定のマイクロピラー先端に数100nN(細胞の発生張力と同程度)の力を負荷して撓ませることできた.このようにして,細胞の接着部位に局所的な力学刺激を負荷できるマイクロピラーデバイスを安定して作製する技術を確立した. 2. マイクロピラーを用いた細胞接着部位への力学刺激負荷と細胞張力変化の計測:作製した弾性マイクロピラーを用いて,ピラー上で血管平滑筋細胞を培養し,顕微鏡下でピラー基板を引張ることによって,細胞の焦点接着部位に力学刺激を加えながら,接着部位の張力変化を計測できる系を構築した.細胞接着部位への引張ひずみが3〜5%以上になると,急激に細胞張力の上昇が観察された.このことから,引張刺激に応じて細胞内のアクチンストレスファイバの収縮機構が活性化する際には,ひずみの閾値が存在することが示唆された.
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