研究概要 |
肉離れはランニング動作の接地前後におけるハムストリングスの伸張性収縮活動時に多く生じる.また,ハムストリングスの肉離れは,半膜様筋,特に大腿二頭筋に多く発生し,半腱様筋の受傷は比較的少ないことが判明している.我々は肉離れ発症メカニズムの解明に示唆を与えるべく,肉離れ受傷機転とされる伸張性収縮時のハムストリングスの機能分担に関する2つの研究を行った.研究Iではハムストリングスに対し強刺激の伸張性膝関節屈曲運動を行わせ,大腿二頭筋,半腱様筋,半膜様筋,および薄筋のMRI・T2画像の経時変化の観察および筋電図による筋活動動態の検討を行った.結果:(1)72時間後を中心として半腱様筋と薄筋に集中して高輝度像が出現し,一方で半膜様筋と大腿二頭筋の変化は軽微であった.(2)伸張性膝関節屈曲運動中のハムストリングスの筋活動動態に関して,半腱様筋および薄筋において顕著な筋活動が認められた.これにより半膜様筋と大腿二頭筋はパワー筋として膝屈曲時での短縮性収縮時に強く働き,半腱様筋と薄筋は逆に膝伸展時の伸張性収縮時に強く働くと推定された.研究IIでは実際にトレッドミルでランニング走を行わせ4種のスピードによるハムストリングスの関与度合いの差異を検討した.結果:筋活動量は走速度の上昇に伴い漸増的に,有意な増大を示した.特に85%maxから95%maxへ走速度が上昇することで自家筋活動による筋への負荷は有意に高くなることが推測された.また最大スピード付近のスプリント動作において,ハムストリングス内の筋活動貢献度の変化や最大活動時間の差異が確認され,特に上体の前傾によりハムストリングスへの負荷が増加することが判明した.本研究は,肉離れ発症メカニズムの解明に対し,ハムストリングス各筋の機能分担を踏まえた萌芽的知見として非常に重要であると思われた.
|