研究概要 |
超高齢化社会を迎え、生活習慣病を早期に評価し介入ることが求めらており、平成20年度からは特定健康診断も開始されている。生活習慣病は遺伝因子と環境因子の相互作用の中で発症、進展する多因子疾患であるが、生活習慣変容や薬物治療の効果を中期的に評価しうるバイオマーカーや、侵襲の少ない遺伝因子解析システムが乏しいのが現状である。本研究では、爪を用いた微量元素解析法による高血圧との関連解析を実施するとともに、爪由来DNA抽出技術を開発し、3種類のSNPsを用いた肥満遺伝子解析を行った。 本研究は、大阪大学医学部附属病院臨床研究倫理委員会の承認後、実施された。本院の老年・高血圧内科外来および全国の協力医療機関において、201名の高血圧患者と1098名の健常者より爪試料を採取し、洗浄乾燥させ、一定量秤量後、硝酸溶液とマイクロウェーブ装置で完全に融解し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS法)を用いてCa, P, Na, K, Mg, Zn, Cu, Se, Cr, Mn, Co, Mo, Al, Hg, Pb, As, Cdの17種類の解析を実施した。その結果、爪Na含有量およびK含有量が高血圧患者有意に高値であることや、性、年齢に応じて各種微量元素濃度が変化することを明らかにした。 一方、爪遺伝子解析では、爪からDNAを抽出する技術開発に成功し、同一人から抽出した末梢血由来DNAと遺伝子多型が一致することを複数の検体で確認した。また、ADRB3遺伝子Trp64Arg多型,ADRB2遺伝子Arg16Gly多型,UCP1遺伝子A-3826G多型を肥満遺伝子の候補としてタイピングできる系を確立し、4,394名の爪の収集に成功した。今回検討した集団では、ADRB3遺伝子多型において、男性のBMIと境界域の相関(p=0.098)を認めたが、その他の遺伝子との関連は認めなかった。
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