研究概要 |
平成19年度に行った漆の基本的物性と乾燥・重合過程の研究成果をふまえて,漆を異なる硬化方法でフィルム状に作製し、それぞれの硬化方法のプロセスの違いによりその構造・物性がどう変化するかについて評価を行なった。材料として四川省・瀬〆漆(ウルシオール60.0%,水分30.6%,ゴム質(含酵素)8.1%,含窒素物1.3%)を用い,常温硬化(常温酵素重合)と高温硬化(熱重合)の2パターンの重合方法により漆フィルムを硬化創製させることに成功した。両者の外観・形態的特徴として,常温硬化のものが柔軟性に優れている一方、高温硬化では脆いフィルムが得られた。これら異なる重合方法で作製した漆フィルムについて構造・物性の評価(X線回折,FT-IR)を行なった結果、構造・物性ともに差異確認でき,特に高温硬化では回折強度が低下していることが知られた。これはフィルム作製温度が高いほど硬化速度が速いために結晶が形成される前に硬化してしまうという原因が考えられる。動的粘弾測定の結果からは,常温硬化の方が高温硬化に比べ貯蔵弾性率が高い結果を得た。常温硬化のフィルムの方が高温硬化のものに比ベガラス転移点が低いことから,結晶領域の差から物性に影響がでていると思われる。漆の繊維化については,重合度のコントロールにより粘度を調整し,曵糸性を確保することにより可能になることが確認できた。紡糸工程および紡糸後の巻取プロセスに機構的な工夫が必要であるが,これらは現在も検討をすすめており,特許出願を予定している。
|