本研究は、美術作品と空間の関係の考察から発展し、1960年代から70年代の「オルタナティヴ・スペース」において展開された制作が、空間に対するどのような意識をもつものであったかを理解しようとするものである。とりわけ、ゴードン・マッタ=クラークの「112グリーン・ストリート」および「FOOD」における活動を対象として、作品に即した把握に努めた。 ニューヨークとモントリオールに所在するマッタ=クラークの調査および資料の調査を基礎として、社会学的知見を参照しながら、考察を進めた。 マッタ=クラークの発言および作品の分析から、「112グリーン・ストリート」における活動を端緒として、空間への関心が、都市という文脈に広がっていくことが分かった。アンリ・ルフェーヴルの、現代都市の空間に対する批判的考察と対比することで、この問題の構成を明らかすることを試みた。 一方、マッタ=クラークの作品は桜の木、黴、キノコなどにより、自然の変化と人間の文化の関係を主題としていることに注目すると、「FOOD」を、自然-料理-人間の関係を通じて都市空間を捉え直す試みと見なすことが可能になる。70年代初頭の経済の変化と相互的な空間の変容に関する社会学的考察をも参照すれば、「FOOD」を、こうした変容に抗するオルタナティヴな空間として見いだすことができる。こうして、「オルタナティヴ・スペース」を、作品と展示空間の関係のみならず、そうした空間を生み出し、変化させていく力のあり方自体を問題として捉える試みとして、考察するに至った。
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