研究概要 |
本年度は、チェコ民族再生運動全体についての研究をまとめ、研究報告書として刊行した。さらに博士論文および単行本とするために改著した(400字換算約1,100枚)。その目次は以下の通りである。 序章「言語と文化の衰滅-小民族のジレンマ」 I「チェコ民族再生運動の前提と歴史」 第一章「チェコ民族再生運動の前提-チェコ人とチェコ語の存在についての懸念」 第二章「チェコ民族再生運動の歴史-チェコ語とチェコ民族の再創造」 II「チェコ民族再生運動期の文化と表象」 第三章「チェコ民族再生運動期の文化-チェコ文化の再創造」 第四章「チェコ民族再生運動期の表象-民族と祖国およびその起源についての主題と変奏」 III「チェコ人とスラヴ人」 第五章「チェコ民族再生運動とスラヴ主義および汎スラヴ主義-アイデンティティの範囲とレベル」 第六章「チェコ民族再生運動とソルブ人-言語・文化の保存における成功と難渋」 IV「チェコ民族再生運動とチェコ・ナショナリズム」 第七章「トマ-シュ・マサリクにおける小民族の問題-精神的な「小ささ」の克服」 第八章「ベルナルド・ボルザノとヤン・パンチカにおけるナショナリズムの問題-ナショナリズム超克の試み」 終章「多様性の尊重-世界の運命としての多様性」 補章「チェコ民族再生運動観の変遷-チェコ民族再生運動研究史に代えて」 この内容を簡単に要約することは困難だが、本研究は、歴史的・社会的な事情からひとたび衰退して、消滅さえ危惧されるようになったチェコ語・チェコ文化を維持し再生した18世記後半〜19世記前半の「チェコ民族再生運動」について、チェコ本国における多くの研究の蓄積を踏まえつつ、日本で初めてこの運動の全体像を明らかにするとともに、大言語・大文化の圧倒的優位化と小言語・小文化の衰滅や、一般に多様性の衰退が進む今日の世界において、この運動が示唆する意味を独自の存在論的観点から探求したものである。
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