研究概要 |
この研究は,ウズベキスタンの行政手続法への日本による支援を通じて日本の行政法の特徴を考えるとともに,日本とドイツの支援を通して日本とドイツの行政法を新しい舞台で比較することをめざした。この萌芽研究で行った主なものは次のことである。 1)2007年7月に世界法社会学会のベルリン大会で,日本とドイツの法整備支援についてのセミナーで,日本側から市橋が,ドイツ側からクニッパー教授が報告した。 2)ドイツにおける体制移行諸国への法整備の現状について,白藤が調査を行い,その成果について2007年11月に名古屋で検討した。 3)9月にタシケントで日本,ドイツ,ウズベキスタン,ロシア等の研究者の参加するウズベキスタン行政手続法についての国際シンポジウムを行い,報告書をロシア語で出版した。このなかで,日本側のこれまでの研究の成果をまとめた。 4)こうした萌芽研究の成果を踏まえ,ウズベキスタンの行政手続き法制定支援についての理論的検討を,市橋が,2008年1月の名古屋大学の法整備支援についての全体会で報告した。 ウズベキスタンの行政手続法案から,行政法の一般原則や行政行為,聴聞等についての規定が削除された。ドイツは,これを強く批判した。ドイツは,法整備支援が被支援国の「歴史と文脈」に照らして行われることを強調するものの,欧米基準を満たさないものは無意味であると考えている。日本側は,ア)ウズベキスタンの行政手続法案は後退したものの,告知,弁明,理由付記,文書等公開等の行政手続法の諸原則の多くは残っている,イ)先進国の行政法と旧社会主義国の行政法は,他の法律分野以上に異質であり,そのことを考慮すれば,欧米基準からは不完全でも,行政法の諸原則を満たすのであれば,それが実際に機能するための支援を待うべきであると考えた。 以上をつうじて,行政手続法の支援を通して,A)市場経済移行諸国における行政法形成についての欧米行政法と形成との対比を通した歴史的理論的研究,B)先進国と体制移行諸国の行政法の異質性を前提にした支援の可能性と方法論の検討が,今後の課題として浮上した。
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