本研究は、1852年以降20世紀前半に至るタイ=中国「外交」交渉過程を、複数の地域のアーカイブスに所蔵される複数の言語史料から明らかにすることを目的とする。この時代のタイ=中国関係は、朝貢もなく条約も締結されなかったことから、従来の研究では看過されてきたが、実際には多様なアクターが多様な形で交渉・交流を実施していた。本研究ではこうした史実を多様な側面から掘り起こしつつ、従来の欧米との関係を中心にすえた外交史研究に対して、東・東南アジア地域に歴史的に形成されてきた広域地域秩序の視点への転換を図り新たな歴史像の提起を試みる。 ・本年度は、昨年度に続いて、タイ国立公文書館・タイ国立図書館に所蔵されるタイ=中国外交史料を中心に史料収集を進めた。複合的な関係に着目し、20世紀初頭を中心に、政治的関係のみならず、経済的、文化的関係も含めて関連資料の収集に努めた。 ・収集した史料は、順次整理・分析を進め、19世紀後半におけるタイと中国との関係、および19世紀初頭におけるタイとビルマ・ベトナムなど周辺諸国との関係を、歴史的な広域地域秩序の観点から再検討する論考をまとめ、それぞれ台湾で刊行される英文誌、および国内の和文誌上において発表した。加えて、歴史学研究会の例会の場で、20世紀初頭のタイにおける近代的歴史叙述の成立と史料編纂事業を再考することを提起する口頭発表を行い、その中で広域アジアの政治的現状と近代的歴史叙述が相関関係にあることを指摘した。
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