研究概要 |
本年度は,時間割引(時間の経過に伴う報酬の価値の低下)に関する実験的検討を行った。時間割引率は直近ほど高く,将来になるにしたがって逓減的であること,また利得と損失の場合では利得の場合の方が割引率は高いことが報告されている。そこで「買い」と「売り」の2場面を設定し,割引率が時点の遠さに対して逓減的であるか否か,及び2場面の間でその割引率に差異がみられるか否かの検討を行った(研究1)。さらに逓減的時間割引が生じる理由として,判断する時点が遠くなるほど気分や態度を優先したヒューリスティックが用いられるという仮説を設定して,選択までの判断時間により検討した(研究2)。 研究1は,時点の遠さ(0,1日後,1,2,4,6,8週間後)と場面(買い・売り)の2要因混合計画で実施し,従属変数は時間割引率(%)であった。研究2は,「買い」と「売り」の各場面について,時点の遠さ(今日,明日,1,2,4,6,8週間後)を要因とする1要因被験者内計画で行い,従属変数は判断時間(ms)を用いた。刺激として提示された二者択一問題への回答により,割引率と判断時間を測定した。「買い」場面では,(A)ある商品を近い将来,定価で買う選択肢と(B)同じ商品をある期間待って低い価格で買う選択肢を設定し,「売り」場面では,(A)所有物を近い将来に定価以下で売却する選択肢と(B)所有物をある期間待って定価で売却する選択肢を設定し,どちらを選択するか尋ねた。 結果から,「買い」場面においては,逓減的時間割引が見られたが,「売り」場面の割引率は,「買い」場面よりも低く,逓減的時間割引も見られなかった。これは保有効果により時点の遠近に関係なく所有物に対しての価値は下がらなかったことが理由として考えられた。また判断時間に関しては,両場面とも時点が遠くなると判断時間が速くなり,仮説通りヒューリスティックが用いられたことが示唆された。
|