研究概要 |
昨年度は,細部に注意を向けやすいという自閉症児における視覚的注意の特徴が,刺激サイズの影響を受けないことを明らかにした。本年度は刺激サイズ以外の要因について,以下の2つの課題に基づき検討した。 不注意ブラインドネス(inattentional blindness)課題:ある課題の遂行中に視野内に提示された他の視覚刺激に気づく程度を測定した。この課題は典型発達児でも過半数が見落としを起こす課題であるが,自閉症児では全員が見落としを起こすことが明らかになった。ただし,事前に予告すれば見落としは劇的に減少することから,不注意や過集中による見落としの予防策が示唆されたと考えられる。時間評価課題:時間感覚に対する注意の影響を調べるため,時間を数える条件と,課題を遂行して時間から注意をそらす条件とで,時間評価の正確さを比較した。その結果,指定された時間が経過したらボタンを押す時間生成課題において,時間を数える条件では自閉症児は典型発達児よりも時間評価が正確であるが,課題を遂行する条件では時間を短く判断する傾向が見られた。一部の自閉症児に見られるあわてて課題を遂行しようとする傾向の背景には,こうした時間感覚の特徴があると考えられ,認知行動療法などにより感覚の補正を行える可能性が示唆された。 上記の他,注意のアセスメントという観点から,本年度は知能検査の歴史的展開について検討した。近年のウェクスラー式知能検査では特に注意・短期記憶といった側面がワーキングメモリという観点から測定されているが,現在目本版を作成中であるWPPSI-IIIではワーキングメモリは測定されておらず,自閉症を初めとする発達障害児の早期発見,早期対応のため,幼児用の注意・短期記憶アセスメントツール開発の必要性を指摘した。
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