研究概要 |
非指数型分布族であるq-正規分布族の情報幾何学を考えるとき,元になる計量がフィッシャー情報行列をスケール変換したものになる.このスケール因子が実はq-正規分布から得られるエスコート分布の規格化因子になっている.このことは,一昨年および昨年の研究結果から明確になったことだが,この事実が非指数型分布族の情報幾何学を構成する際に最も注意を払わなければならないポイントとなっている.ところで,q-正規分布は,それ自体確率密度関数でありながら,何らかの量の期待値を計算するときには,そのエスコート分布で計算することになっている.これは一種の約束であり,なぜそうする必要があるのかということには明確に誰も答えられていない.このことが,非指数型分布族を実際の問題に適用するときに単なる現象論を記述するための道具として割り切るしかないといわれる所以である.しかし,今回期待値を計算する際に「なぜ」q-正規分布そのものではなくエスコート分布を使うのかということには答えることはできていないが,エスコート分布で期待値を計算することは一体「なに」を計算したことになるのかということを明らかにすることができた.具体的には,t-分布を考えると,これはq-正規分布の一種とみなすことができる事を利用して調べると,エスコート分布を用いることは,仮想的にデータの個数を2個だけ増加させることに対応し,その補償としてTsallisエントロピーを減少させるということがわかった.つまり,エスコート分布を考えることは「エントロピーを犠牲にして仮想的にデータ数を増やすこと」に対応しているのである,このことについては更に大偏差原理との関係やエントロピーではなく相対エントロピーの変化など,まだ多くの量についてどのような変化が生じるのかを定量的に求めて比較する必要があるが,これらは今後の課題である.
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