研究概要 |
昨年に引き続き, 液体シンチレータ中へのリチウム溶解を試みた. 界面活性剤を用いる場合, 親水基と親油基の個数を調整でき, 本実験の様に親油性物質が主な場合に最適の非イオン性界面活性剤を調べた. その結果(1)無色透明で(2)化学的に安定な候補は, POE系に限ることが分かった. また金属の溶媒抽出に用いる物質を上記(1)(2)の条件で候補を絞り込んだ. その中でトリブチルリン酸を選択し, リチウム塩を溶解させた. リチウム溶解には成功したが, 約1週間でリチウムが析出する試料があり, 安定性が課題であることが分かった. 結局, 界面活性剤の内で最も含水率が高く, 従って最もリチウムを溶解可能なポリオキシエチレン(10)ノニルフェニルエーテルを使用して, 液体シンチレータを作成し, その性質を調べた. その結果, リチウム濃度1.0%, 減衰長65cm, 発光量47%(対カムランド液体シンチレータ比)であった. これら溶解実験に並行して, 数値シミュレーションを行い, 含リチウム液体シンチレータをニュートリノ実験に使用する場合(特に原子炉近傍に設置し, ニュートリノの到来方向を測定する実験を想定), リチウム溶解度2.0%, 発光量100%, 減衰長70cmが目標となることを示した. 本実験で開発した液体シンチレータはこの目標値に到達しなかったが, リチウムを同位体濃縮した試料が入手出来ることが分かった. 溶解度2.0%という目標値は天然のリチウムを仮定したものであるので, 仮にリチウム6を50%まで濃縮した試料を用いると, リチウム濃度は現在の40%で充分であり, 発光量, 減衰長ともに性能の向上が見込まれる. 従って, 本研究によって, この液体シンチレータを使用したニュートリノ実験の可能性が示され, 大きな成果を得た.
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