研究概要 |
本研究では先ず,従来,申請者が開発してきた超高真空中で稼働する赤外顕微鏡をより波長の長いテラヘルツ波領域までカバーできるように開発し,これを用いた低温・高圧力という多元極限環境下でのテラヘルツ波分光を可能とした。これにより100〜600cm^<-1>の波長領域での実験が可能となった。次に,最近、降温により高温の常磁性金属相からスピングラス絶縁体への転移を示す等,その新奇物性について物理的な興味が集まっているパイロクロアイリジュウム酸化物Nd_2Ir_2O_7とSm_2Ir_2O_7に対して赤外テラヘルツ顕微分光実験を実施することにより次の様な成果を挙げた。(1)高温の常磁性金属相からスピングラス絶縁体への転移を示す両物質について金属相で観測されたフォノンのエネルギーは通常の物質に期待される振る舞いに反して絶縁体相への転移温度以下でそのエネルギーが低下するという「ソフト化」現象を示す。(2)絶縁体化に伴いフォノンのソフト化現象と共に電子状態では伝導電子によるドルーデ反射成分が抑制され、」代わりに1500cm^<-1>の中赤外領域にバンドギャップ形成による帯間電子遷移による新しいピークが成長する,(3)更にNd_2Ir_2O_7に対して低温・高圧下の顕微分光実験を行うことにより,常圧で観測されたフォノンのソフト化が見られない。この事実は,均一な圧力により格子定数を縮めても絶縁体化は起こらない示し、マクロな電気抵抗測定から提唱されていた「希土類元素の原子番号が増えると所謂『ランタニド収縮』により格子定数が減少して電子状態間の混成度が増加するため絶縁体相の安定化が起こる」という定説を実験的に否定するものである。以上の結果を日本物理学会・日本放射光学会・国際会議などで成果発表を行った。
|