研究概要 |
本課題のこれまでの研究で,複数の要素からなるシステムの内部に,ゆらぎが大きく単独では外部刺激への適切な応答などの種々の機能を果たすことが困難な個を導入することで,全体として却って機能が向上するシステムが,多くのシステム,具体的には蟻集団や結合神経系などで存在し得ることを数理模型によって示し,これらの間の共通の論理を探索してきた.今年度は ○これまでの研究に引き続き集団の機能の評価関数として蟻集団の採餌効率を設定し、フェロモンへの走化性に関する「鈍感蟻」の混入量の最適比率、「鈍感蟻」の最適鈍感度などを数値計算によってシステムティックに探求する。 ○理論模型と相補的な形での蟻の採餌トレイル(隊列)形成の実験的研究がどこまで可能であるか検討し、具体的な実験をおこなう。 ○確率共鳴の原理を応用して,人工内耳にノイズを加えることで聴覚補助性能を向上させることを目標にあげ,おもに次の結果を得た. 1. 従来の正常蟻と鈍感蟻2種混合コロニーでの採餌効率の計算を拡張して,正常蟻,鈍感蟻,弱鈍感蟻3種混合コロニーでの採餌効率を数理模型を通じて調べた.その結果,採餌効率に関しては,正常蟻と鈍感蟻を適当な比率で混合し,弱鈍感蟻はを加えないコロニーが最大の採餌率を達成することがわかった.すなわち,システムのゆらぎの大きい個を一定割合加えることが重要であるが.これをゆらぎの小さい個の混合で代用することできないという結果を得た. 2. 蟻の運動やそのゆらぎ.および,複数蟻間の相互作用の関係を実測するためのシステム実験システムを構築し,画像解析により,単体の蟻を容器の中で孤立させた場合と複数の蟻を容器の中に配置した場合の行動様式の違いを定量化し,一定の違いがあることを示した. 3. 複数神経素子からなる確率共鳴のシステムを数理模型として構築し,システムが素子毎に異なる非一様ノイズによって外部からの刺激への応答度が高まることを示した. これらは学会などで発表した.また.著書に本課題に関する昨年までの研究成果を記した.
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