研究概要 |
海洋プレートの沈み込み帯は、陸源砕屑物の供給や高い生産性により厚い堆積物に覆われている。ここでは、厚い堆積物やプレート沈み込みに伴う高い圧力により、断層や泥ダイアピルを通じて、堆積物中の間隙流体の移動・海底への湧出がおこり、沈み込み帯における物質循環や地震活動に大きな影響を与えていると考えられている。 本研究ではプレート沈み込み帯で形成された自生炭酸塩脈に、新しい「^<13>C-^<18>O結合温度指標」を応用し、炭酸塩脈形成時の流体の温度と酸素同位体比を復元し、海洋プレート沈み込み帯の流体の起源、流路の長期変動について定量的な観測を行うことを目的とする。 今年度は、二酸化炭素の精製システムと「^<13>C-^<18>O結合温度指標」の測定システムが確立されている東京工業大学にて試料の分析を行った。 試料は北海道北部中川町に産出する上部白亜系大曲層の炭酸塩岩を用いた。この地層は過去の海洋プレート沈み込み帯に形成された前弧海盆の堆積物と考えられている。炭酸塩岩はチューブワームなどの化学合成生物化石を含み、炭酸塩岩の炭素同位体比も-40(‰PDB)前後を示すことから、この炭酸塩岩は白亜紀の前弧海盆海底のメタン湧水域において形成されたと考えられる。 炭酸塩の生成温度は,37℃〜44℃(±6℃)と水温が高めで,生成当時の流体の酸素同位体比は,-3.2〜2.6(‰SMOW)と大きな幅を持つ。今後,炭酸塩岩が二次的な変質を受けていないとすると,この炭酸塩岩は,海水よりも温かい水が湧出しているところで生成したと考えられる。この結果から,「^<13>C-^<18>O結合温度指標」は過去の湧水環境の復元のために極めて有効な指標になる可能性が示唆された。
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