研究概要 |
放射壊変を用いた年代測定では、鉱物中の親核種が一定時間で壊変して娘核種になる際の[親核種]/[娘核種]比の時間変化を利用するので、年代測定を正しく行うには鉱物生成から現在までにその鉱物で親核種と娘核種の出入りがない必要がある。特に娘核種は、化学的な安定性とは無関係に、放射壊変という現象で鉱物中に無理やりに生成させられる。そのため娘核種は鉱物中で必ずしも化学的に安定ではない可能性があるが、その娘核種の局所構造を調べることはこれまで殆ど不可能であった。平成19年度において我々は、蛍光分光XAFS法を用い、モリブデナイト(MoS_2)という鉱物中で^187Reから生成した玉^187Osの局所構造をEXAFS法から調べることに成功した(Takahashi et al., GCA,2007)。この実験に引き続き、平成20年度においては、K-Ar壊変系に着目し、放射壊変で生成したArの化学種分析に挑戦した。この系では、生成する娘核種であるArが希ガスであるため、Kのサイトあるいはそのサイトの外でArがどのような化学種をとるかは極めて興味深い問題であり、年代測定やK-Ar法の閉鎖温度とも関連する事項である。試料としては、親核種であるKを多く含み、年代値が20億年以上である黒雲母試料を用いた。この試料では、放射壊変で生成したAr-40は1ppm程度は存在するはずであり、XAFS法の高感度にすることで、ArのXANESが測定できる可能性がある。測定に当たっては、Ar自体がXAFS測定でよく用いるガスであるため、その汚染に注意すると共に、ArのK吸収端が比較的低エネルギーにあるものの、バックグランドを下げるために、エネルギー分解能のあるGe半導体検出器でArのK端XANESを測定した。しかし最終的にはArのスペクトルを得ることはできず、Osに引き続き、Arで放射壊変由来の娘核種の状態分析を行うには至らなかった。
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