研究概要 |
前年度作製したフェムト秒光パルスを用いたテラヘルツ帯時間領域分光システム(測定帯域0.1〜3THz)を用いて紫外線照射反強磁性体(NiO)の複素屈折率スペクトルを測定した.紫外線照射によって複素屈折率はわずかに変化したが,導出した複素誘電率及び複素透磁率もわずかに変化するのみで,反強磁性共鳴周波数(1.1THz)においてもこれらの実部が負(左手系物質の必要条件)になることはなかった,これは十分な低温(5K)でも同じであった.今回用いたランプ照射(連続光)では励起強度が十分でなかった可能性がある.NiOの紫外線透過及び反射スペクトルを測定したところ,バンドギャップ以下の波長でも大きな吸収が観測された.そこで試みに波長800nmの光パルスの第2高調波(波長400nm)の光パルスを照射しながら,テラヘルツ波応答を測定したがほとんど変化はなかった. この実験の過程で波長800nmの光パルスを照射すると,周波数が1THz程度の電磁波が放射されることを見出した.放射電磁波周波数の温度変化を測定したところ,波数ゼロの反強磁性マグノンの温度変化と一致した.すなわち光パルス励起により何らかのプロセスで波数ゼロのマグノンが励起され,そのマグノンから電磁波が放射されていると考えられる,放射電磁波電場の励起光強度依存性から,光パルスによるマグノンの励起プロセスとしてはコヒーレントアンチストークスラマン散乱過程が考えられる.
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