研究概要 |
近年カンボジアでは地下水のヒ素汚染が報告され, 農村部では微生物とヒ素による地下水の複合汚染が問題となっている。ヒ素が抗体を産生するリンパ球のDNA合成を阻害するという知見が得られていることから, 対象地域のように微生物とヒ素による水源の複合汚染が見られる場合には, ヒ素への曝露により抗体陽性率が過小評価されることが懸念される。本年度は,対象地域で採取した住民261人の飲用水(地下水)と毛髪サンプル中の重金属濃度を測定し, 住民の重金属への暴露の実態を評価した。また, 昨年度明らかにした不衛生な水の利用(飲用水の大腸菌群濃度が1個/mL以上であること)によるヘリコバクター感染症リスクの上昇(オッズ比=5.29)について, 重金属への曝露が影響しているかどうかを検証した。 対象村落では井戸水が主要な飲用水源で,そのおよそ20%からはWHOのガイドライン値(10μg/L)を超えるヒ素が検出された。さらに, 42%の井戸からはガイドライン値(10μg/L)以上の鉛も検出された。ヒ素への暴露がヘリコバクター感染症罹患率へ与える影響は, 住民を毛髪から1μg/g-dry以上のヒ素が検出された集団とされない集団に層化することで, ヒ素の曝露という交絡因子を排除した上で, あらためてオッズ比を計算し評価した。その結果, 飲用水の大腸菌群濃度が1個/mL以上であることのオッズ比は5.27(95%CI=1.09-25.4)となり, 層化する前のオッズ比とほぼ同じであった。対象村落では, 抗ヘリコバクター抗体IgGの産生に対するヒ素曝露の影響は無視できるほど小さかった。
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