研究概要 |
現在,イオンエンジン技術の新たな展開分野が注目されはじめている.太陽輻射圧や大気抵抗を推進器で補償しでドラッグフリー状態を作り出し,重力波天文や地球重力場計測を行うのである.しかし,これらのミッションが要求する推力性能は,10μNという微小推力を10Hz以上の高速レスポンスをもってスロットリングするという,これまでに全く存在しなかったものである.本研究では,電圧により推力スロットリングが可能であり,かつ簡易性に優れ小型化に適したマイクロ波式イオンエンジンを,新しい宇宙利用の鍵となる上記ドラッグフリー用微小推力スラスタとして応用展開する研究を行った. 本研究の最大の焦点は,研究代表者が築いてきたマイクロ波イオンエンジンの技術を基に,イオンビーム源にも中和電子源にも両用できるプラズマ源(両極性プラズマ源)を開発しエンジンの小型化を実現する点にある.19年度の研究において,低電力プラズマ源の開発を行い,高効率の超低電力小型イオンエンジンの開発を達成した.また,性能は低いものの両極性運転の原理実証を行った.つづいて,20年度の研究では,電子放出の最適化のための基礎実験行い,電子放出の基礎データを構築した.これにより効率的な両極性運転を達成するためのプラズマ源開発の目途がついた. 21年度の研究では,前年度の研究データに基づき,イオンおよび電子引出の両者に最適なプラズマ源の開発および実証を行った.この結果,既存のイオンエンジングリッドとは大きく異なる2種類の孔径を持つグリッドを用いる事によって,両者の効率的な引出を可能とした.この結果に基づき,イオンビーム引出および中和電子放出の組合同時運転ならびに切替作動の実証に成功し,世界初の全消費電力10W級の小型イオンエンジンの基礎開発に成功した.
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