研究概要 |
植物は青色光,UV-A,およびUV-Bに応答してアントシアニンを合成する.カルコン合成酵素(CHS)はアントシアニン生合成経路の鍵酵素である.トマトではCHS1とCHS2の2種類が単離されており,カブからは今年度の研究により計6種類のCHSが単離できた.これらの発現を半定量RT-PCRまたはリアルタイムPCRにより調べた. 野生型およびクリプトクロム1欠失突然変異体(cry1)のトマト,およびカブ'津田カブ'を暗黒下で発芽させ,青色光,UV-B,UV-A,またはUV-B+青を24時間照射した.トマトとカブのいずれでも,青により下胚軸上部に,UV-Aにより下胚軸中下部にアントシアニンが蓄積した.青を照射したとき,野生型トマトでは下胚軸上部のCHS1の発現が高く,cry1ではCHS1の発現はほとんど見られなかった.一方,CHS2は,野生型,cry1のいずれでもUV-Aを照射したときに下胚軸中下部で発現が見られた.このことは,クリプトクロムが光を感知した場合にはCHS1がはたらき,これとは別にUV-Aを感知してCHS2の発現を誘導する系が存在することを示した. カブにおいては,CHS1,CHS5がUV-Aにより,またCHS4がUV-B+青により下胚軸中下部で強い発現を示した.さらに,転写調節因子であるMYBファミリーのうちPAP1の発現は,青やUV-B+青では下胚軸上部で発現が誘導され,UV-A照射では下胚軸下部における発現が高まった.このようにPAP1の発現パターンはアントシアニン蓄積パターンとよく一致した.また,MYB12はUV-AおよびUV-B+青により,MYB111はUV-B+青により発現が誘導された.以上により異なる波長の光によるアントシアニン合成の誘導においては異なるCHSが働き,その調節にMYBが関与していることが推測された.
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