研究概要 |
本申請は、食品に含まれている、あるいは含まれる可能性のある物質を妊娠マウスに食餌として与え、形態形成において中心的な役割を果たしていることが知られているHoxを中心とした遺伝子群の胎児発達過程における発現変化を観察することによって、催奇性の可能性のある物質を検出しようという方法の開発である。今年度は催奇性があることがすでに知られているレチノイン酸およびダイオキシン(TCDD)を妊娠10.5日のマウスに投与し、その6時間後の胎児のRNAを採取し、RT-PCR法によってHox遺伝子の発現の変化を39個すべての遺伝子について解析した。その結果、レチノイン酸では、Hoxa1,a3,a4,b4,c10,d1,d4等多くの遺伝子の発現が、またダイオキシンによっては、Hoxa2,a5,d8,d9,d12の発現が有意に変化した。さらに発現の変化が観察されたいくつかのHox遺伝子については、その発現量の変化だけでなく、発現領域の変化を明らかにするためin situハイブリダイゼーション法を用いて解析した。本研究で用いた催奇性物質の投与濃度は、明らかな形態的な異常を引き起こす濃度ではなかったが、レチノイン酸、ダイオキシンともにいくつかのHox遺伝子について、その発現量も発現領域も有意に変化していることが明らかになった。形態の異常が観察されなくても、哺乳類の形態形成過程を制御しているHox遺伝子の発現が大きく変化しているということは、催奇性をもった物質の検出を高感度に検出できることを示している。別の観点に立てば、Hox遺伝子の発現変化が直ちに形態形成異常につながらないということであるが、催奇性検査がヒトでなく実験動物で行われていることや、われわれが複数の催奇性の可能性のある物質の中で生活しており、それがさらに増加しつつある、ということを考えれば、本検出法は、危険性のある物質の高感度な検出にきわめて意義のあるものであると考えられる。
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