研究概要 |
Epstein-Barr virus(EBV)感染は,バーキットリンパ腫および上咽頭癌の発症に強く関連し,国際癌研究機関AIRCによりヒトに対して発がん性があるGroup1に分類している。上咽頭癌は中国南部地域に多発し,欧米に比べ約100倍の罹患率である。我々は変異原性DNA損傷塩基である8-nitroguanineを上咽頭癌患者および上咽頭炎患者について解析し、EBV感染との関連を検討した。インフォームド・コンセントの得られた患者より生検標本および手術標本を得て、免疫組織染色法により8-nitroguanineおよび炎症関連分子を検討した。その結果,8-nitroguanineは上咽頭癌細胞に強い染色性が認められた。また、EBVに感染している上咽頭炎患者の上皮細胞においても8-nitroguanineが認められた。一方,EBVに感染していない上咽頭炎患者の上皮細胞においては8-nitroguanineの生成は認められなかった。非EBV感染上咽頭炎とEBV感染上咽頭炎との間にも有意差がみられた。一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現が8-nitroguanine陽性細胞で認められた。また、EBV感染患者では上皮細胞に上皮成長因子受容体(EGFR)およびシグナル伝達性転写因子3(STAT3)、が共発現し、また、インターロイキン6(IL-6)が主にマクロファージに発現していた。以上より,発がん機構を推定すると,マクロファージなどの炎症細胞から放出されたIL-6を介してSTAT3がリン酸化され,核内に移行する。また、EBVによるLMP1を介してEGFRによりが核内に移行し,両者により転写が活性化され、iNOSが発現して一酸化窒素が生成し,8-nitroguanineが生じ、発がんに至ると考えられる。8-Nitroguanineは炎症関連発がんのバイオマーカーとして有効であることが明らかになった。
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