研究概要 |
本研究ではヒト癌細胞へのシスプラチンの取り込み,引き続きおこる核への分布,細胞からの排泄を,大気マイクロピクシー技術により画像解析し,抗腫瘍効果の発現との関係について明らかにする.大気マイクロPIXEによるPtの定量性を確認するために,標準試料(Pt濃度を変化させた寒天を20μmに薄切し凍結乾燥したもの)を作成し,測定を行った.細胞はヒト肺腺癌細胞であるA549を用いて,10μMのBrdUでパルスラベルした対数増殖期の細胞を5μm厚のマイラーフィルム上で培養し,生着したことを確認した後,1mMのシスプラチンを接触させた.接触時間は30分から24時間とした.薬剤に接触後,THAMバッファーで6回洗浄した後,急速凍結乾燥した.解析は日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所の大気マイクロPIXE測定装置を用いた.標準試料を用いた解析では,試料内のシスプラチン濃度と測定されたPtの間に直線性が明らかであった.培養細胞試料では,P,K,Clなどの細胞の局在を示す元素,BrdUでラベルした核内Brおよび細胞に取り込まれたPtが検出可能であった.シスプラチン接触時間の延長とともに,細胞内Ptおよび核内Ptのカウントの増加が観察され,直線性が認められた.大気マイクロピクシーは生物試料に応用可能であるが,さらに検出感度をあげる工夫により,詳細な観察が可能と考えられた.また,このシステムにより肺組織内の重金属の検出ができた症例を経験し,この領域における今後の病理組織診断の一端を担う可能性が示唆された.
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