研究概要 |
癌遺伝子の増幅や癌抑制遺伝子の欠失を伴う染色体変化は癌細胞の特徴である.本研究では短いゲノム断片を解析しゲノム上のDNAコピー数以上を示す領域を検出する方法としてデジタルゲノムスキャニング(DGS: Digital Genome Scanning)法を開発し,胃癌細胞株におけるゲノムコピー数異常の検出を試みた. DGS法を利用して,ヒト胃癌細胞株においてKRASCACNAIC (calcium channel, viltage-dependent, 1 type, alpha-1c subunit)を含む2つの約500kbのゲノム領域を染色体12p12.1と12p13.33に同定した.KRAS遺伝子増幅を有する胃癌細胞株では,KRASのmRNAおよびタンパクレベルはKRAS遺伝子コピー数とよく相関していた.正常型KRASが遺伝子増幅した胃癌細胞では,血清刺激後に高レベルのGTP-KRASおよびリン酸化p44/42が検出された.一方,変異型KRASが遺伝子増幅した別の胃癌細胞では,恒常的に高レベルの活性型KRASおよびp44/42が検出された.この結果は,細胞増殖において正常型KRASの遺伝子増幅が無刺激条件下で選択優位性をもたらすのみならず,増殖因子刺激や高栄養環境の条件では点変異KRAS遺伝子と同様に著しい選択優位性を獲得可能なことを強く示唆している. 以上より,DGS法は癌を代表とするゲノムコピー数異常を呈する疾患の原因遺伝子探索において有効な手法となりうることを実証した.
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