研究概要 |
静脈麻酔薬プロポフォールと吸入麻酔薬セボフルランの作用についてTRPV1に注目して解析した.TRPV1は末梢神経に発現する多刺激痛み受容体である.TRPV1をHEK293細胞に強制発現させ,プロポフォールおよびセボフルランを付加し,その作用をホールセルパッチクランプ法を用いて検討した.カプサイシン刺激によって惹起されるTRPV1を介する電流に対してセボフルランはなんら影響を与えなかった.また,セボフルラン単独でもTRPV1を介する電流は生じなかった.一方,プロポフォールはTRPV1を介する電流を惹起するとともにカプサイシン刺激によるTRPV1を介する電流を増強した.次に,マウス後根神経節細胞を用いてプロポフォールの効果を検討した.C57B6系統マウスの後根神経節細胞を急性単離し,プロポフォールを投与したところ内向き電流が惹起された.このプロポフォール誘起電流はTRPV1拮抗薬であるカプサゼピンで一部抑制された.さらに,TRPV1遺伝子欠損マウスから得られた急性単離後根神経節細胞と反応を比較した.TRPV1遺伝子欠損マウス後根神経節細胞では野生型マウス後根神経節細胞と比較してプロポフォール誘起電流が減弱した.以上により,静脈麻酔薬プロポフォールはTRPV1を活性化することが明らかとなった.臨床上,プロポフォール投与により血管痛が誘発される.このプロポフォールによる血管痛にはTRPV1活性化が一部関与していることが示唆された.
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