研究概要 |
喉頭は発声,上気道反射,呼吸という多機能を有する器官であり,喉頭摘出による喉頭機能の喪失はquality of lifeの著しい低下を招く。これらの種々の喉頭機能回復を植え込み型人工臓器によって実現させるためには,喉頭運動を駆動する神経すなわち反回神経の活動をモニターし,中枢からのリアルタイムの出力情報を取得する必要が生じる。しかし,反回神経は拮抗筋である声門閉鎖筋および声門開大筋支配運動神経の双方を含んでいるという解剖学的な特徴があり,この異なる2系統の神経出力情報を分離できなければ,喉頭への複雑な運動出力を適切にモニターすることは困難である。本研究において,喉頭摘出後の反回神経から声門閉鎖筋および開大筋への出力情報を分離して取り出す試みを行った。実験にはネコを用い,片側の反回神経を切断後,同側の除神経した胸鎖乳突筋に植え込みを行った。神経再支配の確立した後胸鎖乳突筋より筋電図を記録し,同時に横隔膜筋電図記録,健側の内喉頭筋筋電図記録を行い,これらの筋活動パターンの解析を行った。切断側の反回神経の電気刺激により同側胸鎖乳突筋に誘発筋電位が認められ神経再支配が確認されたが,安静呼吸時における胸鎖乳突筋の自発活動の電位振幅が低く,安静時における神経出力情報の分離は困難であった。一方誘発発声中において,胸鎖乳突筋活動が認められ,さらに横隔膜活動の有無を指標に分離を行うことにより,健側の内喉頭筋筋活動に類似した活動パターンを得ることが出来た。反回神経の出力情報がより高感度に抽出できるよう改善できれば,種々の喉頭運動を駆動する閉鎖筋および開大筋への神経出力情報の分離を行える可能性が示された。
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