研究概要 |
組織の再生を達成するためには、再生の担い手である細胞、特に幹細胞が重要と考えられている。胚由来のES細胞は優れた分化能を持つが、倫理的、技術的問題がある。したがって、患者本人から採取可能である体性幹細胞が、現時点ではもっとも有望な細胞源と考えられている。ES細胞と比較して体性幹細胞の分化能は限られており、高い分可能を持つ体性幹細胞分画を見つけ出すことが重要な研究テーマとなっている。神経堤細胞は、脊椎動物の初期発生において表皮外胚葉と神経上皮の境界部に生じる細胞集団であり、この神経堤に由来する細胞からは、末梢神経系の神経細胞をはじめとしてさまざまな細胞腫が分化することが知られている。近年遺伝子マーカーを用いた研究により、この神経堤に由来する細胞が、歯髄および歯周組織に多く含まれることが明らかになった。このことから、多能性を持つ幹細胞分画の研究対象として、歯髄あるいは歯周組織由来の細胞には大きな可能性があると考えられる。本申請は、神経堤由来細胞を多く含むと考えられる歯髄由来の幹細胞に着目し、さらにその可塑性を高める可能性を検討するものである。平成19年度には、幹細胞の可塑性に関与する初期化因子について、歯髄由来細胞中での発現を確認した。分化マーカーであるRunx2, ALP, osteopontin, BSP, DSPP, DMP-1陽性であるが、ES細胞関連因子であるNanog、0ct-4、Sox2の発現は認めなかった。平成20年度には、歯髄由来細胞の可塑性に培養環境、特に酸素分圧とグルコース濃度が及ぼす影響について検討を行った。その結果、低酸素、低グルコース濃度が培養歯髄細胞の生存に適しており、短時間の無酸素刺激により、0ct-4, Sox2の発現が一過性に誘導されることが明らかとなった。また、無酸素下で生存した細胞は高い可塑性を示した。
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