研究概要 |
ジャクソンラボよりヘテロ欠損雌マウスMeCP2(+/-)を購入した。MeCP2(+/-)マウスを30週以上継続して通常の餌を与えて飼育したところ,約60%のマウスで体重が標準値の2倍以上(50g超)に増加した。また, MeCP2(+/-)肥満マウスの約20%では音刺激に対して痙攣発作を生じるなどの異常が認められた。肥満マウスについて脳の連続切片を作製し,マウス抗チロシン水酸化酵素(TH)抗体(Boehringer Mannheim社)を一次抗体に用い,THの局在ならびに免疫陽性細胞数を調べた。橋の青斑核,延髄の孤束核,A1/C1においてTH陽性の神経細胞が多数確認できたが, MeCP2(+/-)マウスでは野生型雌マウスに比べ, TH陽性細胞数に変化がみられなかったものの発現シグナルの低下が認められた。肥満を呈したMeCP2(+/-)マウスについて,小動物用エックス線マイクロCTを用いて胸腹部,頭蓋骨,顎骨の3次元計測を行い,野生型マウスと比較した。MeCP2(+/-)マウスでは胸腔内ならびに肝臓,膵臓などの内臓周囲に著明な脂肪の蓄積を認めた。連続的な餌摂取量の測定結果から,この体重の異常増加は主として過食が原因であることが判明し,その背景として摂食調節中枢での酸化ストレスの関与が考えられた。摂食調節中枢からRNAを抽出し,マイクロアレイ解析を実施した結果,摂食調節中枢のうち孤束核においてTHならびに小胞膜モソアミントランスポーター2(VMAT2) mRNA発現の著明な低下が認められた。さらにMeCP2(+/-)マウスから生まれたMeCP2(-/y)雄マウスでは,同週齢の野生型マウスと比較して全例で骨の成長不良が認められ,生後10週以降では約50%に下顎門歯の偏位が確認された。また同時期に歯ぎしりが著明になったが,生後10〜12週の死亡時での歯の咬耗は明確ではなかった。死亡の原因として,延髄での呼吸中枢の異常,心筋あるいは腸管を支配する自律神経系の異常が考えられ,ミトコンドリアの異常等から推測して酸化ストレスがそれらの増悪要因であることが示唆された。
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