研究概要 |
コルチゾールは副腎皮質において産生されるグルココルチコイドであり,ストレスによって産生が促進される。本研究では慢性的なコルチゾール産生は歯周組織の破壊に関与するという仮説をたて,上皮細胞の宿主防御機能とストレスとの関係について明らかにすることを目的とした。90%以上のコルチゾールはコルチコステロイド結合蛋白(CBG)と結合し,標的器官へ転送,輸送されることが知られており,CBGの増加,欠乏はさまざまな疾患と関連する。ヒト歯肉組織の免疫染色では,健常者の歯肉組織においてCBGの発現は認められなかったが,歯周炎患者の歯肉組織では上皮組織にCBGの発現が認められた。また培養ヒト歯肉上皮細胞(HGEC)培養系を用いた研究から,歯肉上皮細胞内でのコルチゾールの分泌が確認され,さらに歯周病原細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitansを作用させるとコルチゾールの分泌は促進することが明らかとなった。これらの結果から,歯肉炎症組織においてコルチゾールの発現が正常組織と比較して高いことが推察される。そこで,コルチゾールが歯肉上皮細胞へ及ぼす影響について検討した。合成コルチゾールであるdexame thasoneのHGECへの長期作用(5日間)は,歯肉上皮細胞の細胞接着装置であるtight junction構成タンパク質ZO-1の発現を低下させた。しかしながら,短期作用ではZO-1の発現への影響は無かった。これらのことから,歯周炎患者の歯肉上皮組織には,コルチゾールが正常上皮組織よりも高く存在し,このコルチゾールが歯肉上皮細胞の細胞間接着を弱めることによって歯周炎が進行していく可能性があることが示唆された。
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