研究概要 |
ドイツ語と絶えず接触している状況にある上ソルブ語では,さまざまな面でドイツ語の影響と思われる現象がみられる。たとえば,上ソルブ語の発話中にドイツ語語彙が現れることは少なくない。しかし,それらを詳細に観察すると,名詞のみならず,間投詞,副詞もドイツ語語彙が多用されていることがわかった。また,動詞接頭辞にも,いくつかのドイツ語分離動詞前綴り(hin-,los-など)が上ソルブ語の動詞接頭辞として使用されていることがわかった(hinpadnyc(hin-落ちる)「下に落ちる」,losjec(los-行く)「出発する」)。さらに,上ソルブ語は冠詞を持たない言語であるが,話し言葉においては,指示詞ton「この」,数詞jedyn「1」がそれぞれドイツ語の定冠詞der/das/die,不定冠詞ein/eineのごとく冠詞的に用いられやすいことをつきとめた。 これらの言語事実は,今後の研究の道筋を立てるのに十分な成果だと言える。 文法記述と平行しておこなった資料アーカイブについては,SILが配布しているフリーソフトウェアField Linguist's Toolboxによるテキスト資料電子化に取り組んだ。その結果,比較的まとまった量の電子テキスト集が整い,さまざまな文法事項についての考察を行うための基盤ができたと考える。
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