研究概要 |
本研究においては裁判員制度の下における伝聞法則の変容の可能性とあるべき変容の方向性について検討し,いわば総論と各論として,暫定的ながら,次の二つの結論を得た。すなわち,第1に,従来の伝聞法則をめぐる議論の論拠は,大きく次の3つに分けることができる。(1)捜査と公判の遮断,(2)事実認定の正確性確保,(3)証人審問権の保障強化である。しかし,議論の見通しをよくするため(2)以外の点はひとまず伝聞法則の理解から切り離すべきである。とりわけ裁判員裁判の導入は,(1)と(2)を切り離す契機を提供するものである。第2に,(1)争いのある事件と争いのない事件,裁判員裁判と職業裁判官のみによる裁判との間で証拠法則を異なるものとすること,それを前提に,(2)裁判員裁判一般,あるいは争いのある事件に限定して,伝聞例外に関する一般条項をまず設け,事例の集積を待ってさらに詳細に類型ごとの成文化を図ることも考えられるが,我が国の刑事証拠法の構造,刑事司法の在り方全般に影響しうるのでなお慎重な検討を要する。
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