これまで、様々な半導体における高密度光励起状態が研究されてきたにもかかわらず、トリエキシトン(3つの励起子がクーロンポテンシャルにより束縛状態を形成したもの)の存在は確認されていなかった。そのような状況のなか、研究代表者は、昨年度までの研究で、無機有機複合層状半導体 ((C_6H_5C_2H_4NH_3)_2PbI_4)において、新たな非線形蛍光線を発見し、その励起密度依存性のべき乗則と温度依存性とから、これがトリエキシトンの形成に由来することを結論し、トリエキシトンの内部構造の模型を提案した。今年度の研究では、蛍光の時間変化を調べることにより、問題の蛍光線がトリエキシトンに曲来するとの解釈に追加根拠を与えるとともに、トリエキシトンの生成消滅過程を解明することを狙った。 蛍光の時間分解測定は、フェムト秒再生増幅器システムを応用した和周波混合法によりおこなった。試料はスピンコート膜とし、約10Kまで冷却した。励起光の波長は励起子共鳴に設定し、10^<13>〜10^<15>光子/cm^2の密度励起のもとで、励起子蛍光線(X)、励起子分子蛍光線(M)、トリエキシトン蛍光線(T)、のそれぞれについて強度の時間変化を測定した。 実験結果を解析した結果、Xの寿命は約20ピコ秒、Mは約50ピコ秒、Tは約10ピコ秒と見積もられた。また、Tの強度は、励起光パルス照射後、Mと同じかやや遅れて(5ピコ秒強)立ち上がることがわかった。この立ち上がり時間は、励起子と励起子分子とが衝突しトリエキシトンが生成するのにかかる時間であると解釈できる。いっぽう、Tの寿命に注目すると、これがMやXの寿命よりも短いことは、現状のトリエキシトン模型では説明することできない。
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