研究概要 |
維管束形成におけるオルガネラの動態変化を詳細に解析するため,オルガネラマーカーを導入した培養細胞で分化を誘導し,観察を行ったところ,道管形成の最終ステージで,液胞の動きが一旦停止し,液胞膜の透過性が消失,その後収縮しながら液胞が崩壊する過程を捉えることに成功した.また,液胞の動きが停止すると同時にゴルジ体の動きも停止することも明らかにした.次に,このようなオルガネラ,とくに液胞の動態変化の制御機構の解明に向けて,液胞膜の動態制御に係わる小胞輸送制御因子であるRab7GTPaseのノックアウト変異体の解析を行った.これまでにシロイヌナズナAtRab7グループはグループ間の機能の重複から単独では表現型を示さないことを明らかにしている.そこで,本年度は引き続きrab7多重変異体の作製・解析を進めると同時に,Rab7のGDP/GTP交換因子(GEF)として知られるVAM6/VPS39のシロイヌナズナホモログ(AtVAM6)について解析を行った.rab7多重変異体のうち,rab71/72/73/74/75五重変異体では野生型と比べて,発芽後の生育が悪く,葉の形態にも異常が見られた.とくに葉の形態に異常を示すラインでは,それに伴い葉脈パターンの異常が観察された.また,この五重変異体においては,種子の貯蔵型液胞が激しく断片化していることもわかった.これらの結果は,AtRab71〜75が協調して,液胞の融合だけでなく,植物の形態形成においても機能していることを示唆している.Rab7のGEFであるVAM6のホモログがシロイヌナズナゲノム中にも1コピー存在する.そこで,AtVAM6のノックアウト変異体を確立し,その表現型の解析を行ったところ,atvam6の変異をホモに持つ個体は胚致死を示すことがわかった.さらに詳細に胚発生過程を観察した結果,atvam6変異体では胚発生の進行が遅延し,魚雷型胚でほぼ完全に停止してしまうことが明らかとなった.以上の結果から,液胞膜の動態制御因子が植物の形態形成の様々な局面で重要な役割を担っていることが示唆された.
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