研究課題
若手研究(B)
本年度は、20残基のミニ蛋白質Trp-cage(配列はNLYIQWLKDGGPSSGRPPPS)を研究対象として選定した。この蛋白質は水溶液中でTrp6を囲むかご状の構造をとる。4残基異なる変異体TC3b(配列はNLFIEWLKNGGPSSGAPPPS)はこのかご状の構造をとる確率が低くなることが知られている。そこで、マルチカノニカル分子動力学シミュレーションを用いて野生型、変異体について自由エネルギー地形を計算し、立体構造形成能を比較した。この結果、天然構造からのCα原子のRMSDが2A以下となるポピュレーションは、野生型で56.9%であるのに対し、この変異体では12.1%と大きく減少していることが明らかとなった。この結果は、実験結果とよく一致しており、本研究で使用したシミュレーション手法が十分な信頼性を持っていることを示している。野生型とTC3bでは4つの残基が異なっていることから、どの残基が立体構造形成に重要な役割を果たしているかを明らかにするために、野生型にTC3bの残基を導入した変異体について、同様にシミュレーションを行った。現在までにTrp-cageのArg16をAlaに置換したR16A変異体について計算を終了した。この残基は野生型の天然構造においてAsp9と塩橋を形成していることから、TC3bの立体構造形成能が低い原因はこの塩橋が形成されないためとされてきた。しかし、野生型の天然構造からのCα RMSDが2A以下のポピュレーションは45.5%と、野生型に匹敵するレベルであった。従って、この塩橋の形成は、立体構造形成に必須ではないといえる。今後は他の残基についても同様に立体構造形成能への影響を精査し、立体構造形成における各残基の役割を明らかにしていく予定である。
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Chemical Physics Letters 460
ページ: 295-299
Proteins : Structure, Function, and Bioinformatics 73
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