研究概要 |
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は細胞周期に同調した複製と分裂時の均等なゲノム分配機構により潜伏感染を維持している。KSHVゲノムの潜伏感染複製にはウイルス因子LANAと複製開始起点(ori-P)としてTerminal repeat(TR)が必要であり,ORC, Cdc6, Cdt1などの宿主複製開始因子(pre-RC)を集結させて達成されると考えられる。 本研究では,LANAが難溶性分画(核マトリックス分画)へ集積することを明らかにした。この結果はIFAによる細胞内局在と一致した。さらに,TR挿入プラスミドの複製にはLANA の核マトリックス分画への局在が必要であった。細胞分画後のOri-P領域の局在をPCRにより調べたところ,LANAの局在と同様に核マトリックス分画に局在が見られた。LANAは細胞周期を通じてこの分画に存在する一方,TR はG1期特異的な局在であった。よってLANA依存的にOri-P領域が核マトリックス上にリクルートされ,G1期にpre-RCの形成が行なわれることで複製を開始し,複製後のDNA 領域は核マトリックス上から遊離することが示唆された。本結果は, LANAとpre-RCとの相互作用を重要視したこれまでの見解について問題提起するものである。また,KSHVゲノム内のTR近傍にmatrix-attachment region(K-MAR)の特徴を示す領域(K-MAR)を見いだした。K-MAR を挿入したGFP発現G418耐性プラスミドを導入した細胞は薬剤選択下で有意に高いコロニー形成能を示した。K-MARは自立複製能力を持たないことから,薬剤耐性遺伝子のより安定な発現に関与していることが示唆された。Ori-PやK-MARによる複製・分配・維持機構や遺伝子安定発現機構を明らかにすることで,将来的には遺伝子治療用ベクター開発にも有用な情報が得られるものと考えられる。
|