研究課題
若手研究(B)
HIV薬剤感受性検査は遺伝子検査とは異なり耐性の程度を定量化できることや、既知の耐性変異以外による耐性の検出ができることから、迅速かつ簡便な検査法の確立が望まれている。しかし、日本では、HIV-1の取扱がBSL-3に限定される事から、BSL-2施設しか持ち合わせていない機関においては、HIV-1の薬剤感受性検査を行う事は非常に難しい。この研究では、薬剤耐性HIV-1の薬剤感受性検査をBSL-2施設にて簡便に効率良く行う事が出来る系の構築を目的とした。現在主に遺伝子導入実験に用いられているHIV-1 vectorはBSL-2での使用が可能である。本研究ではHIV-1 vectorのpol領域にHIV-1感染者由来のpolをIn-Fusionクローニングシステムにより簡便に組み換える事が出来る様に改変した。またHIV-1 vector感染の指標としてLuciferase遺伝子を組み込んだ。作製したHIV-1 vectorを感染させたMT-2細胞は、感染量依存的なLuciferase活性を示し、既存の抗HIV薬剤に対して薬剤濃度依存的なLuciferase活性低下を示した。プロテアーゼ阻害剤に耐性である84V/90Mの変異ウイルスにおいては、SQVでは2.0倍、NFVに対しては4.3倍の耐性を示した。核酸系逆転写酵素阻害剤耐性の41L/67L/70R/215Y変異ウイルスにおいてはAZTに対して265倍、184V変異ウイルスにおいては3TCに対して100倍以上の耐性を示した。非核酸系逆転写酵素阻害剤耐性の103N変異ウイルスにおいてはNVPに対して10倍以上、190S変異ウイルスにおいてはEFVに対して92倍の耐性を示す事が確認された。これらの結果から、HIV-1 vectorを用いた本薬剤感受性検査方法は、BSL-2におけるHIV-1薬剤感受性検査に利用可能であると考えられた。HIV-1感染者血漿由来の薬剤耐性HIV-1からpol領域をRT-PCRにて増幅したのち、In-FusionクローニングシステムにてHIV-1 vectorへのクローニングを行い、野生型のHIV-1 vectorとの薬剤感受性の比較を行った。同時に感染者血漿由来のHIV-1 pol領域の遺伝子配列に対して、HIV-1の遺伝子検査を行う際に最もよく用いられているStanford大学のHIV-1 genotypingシステムを用い、薬剤耐性の推定を行った。その結果、本HIV薬剤感受性検査法によって得られた感染者由来のHIV-1の薬剤耐性度は、Stanford大学のgenotypingシステムから推定された結果との相関が見られた。これらの結果から本検査法はBSL-2における簡便なHIV薬剤感受性検査として有用であると考えられた。効率よく運用できる様に今後システムに更なる改良を加えていきたい。
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