研究概要 |
亜鉛製剤は,過剰毒性の出にくいWilson病治療薬として用いられているほか,海外では小児の感染症予防を目的とした投与試験が行われている。本研究では,亜鉛製剤の新たな臨床応用を目指して,動脈硬化の進展に密接に関与するThリンパ球の活性化制御の可能性に着目し,その作用の解明を目的とした。Th0/1の形質を示すヒト由来細胞株Jurkat細胞を用いて,亜鉛による1。Th1活性化の抑制機構と,2.活性化リンパ球選択的な細胞死誘導機構を見出した。 1.ジアシルグリセロール(DG)シグナルとカルシウムシグナルをそれぞれPMAとPHAまたはイオノフォアで活性化した。さらに,各種プロテインキナーゼC(PKC)の阻害剤を組み合わせた実験も行った。その結果,毒性を示さない濃度の亜鉛が.DGからT細胞活性化に必須のカルシウム非依存性PKCを経由して転写因子AP-1に至るシグナル伝達を抑制し,炎症性サイトカインの発現誘導を抑制することを明らかにした。 2.低血清培地中で細胞を活性化すると,亜鉛濃度依存的にNADH産生の減少と細胞死が誘導された。この細胞死はアポトーシスではないが一般的なネクローシスとも異なり,他細胞への傷害性の指標である乳酸脱水素酵素の漏出が抑制されていた。また,ミトコンドリア膜電位の低下が特徴的であった。亜鉛の蛍光指示薬を用いた解析により,低栄養下で活性化した細胞特異的に,細胞外から細胞内へ,さらにミトコンドリアへ亜鉛が流入してエネルギー欠乏死に至る機構を見出した。初期にNAD+が選択的に減少したことから,亜鉛が,細胞死における役割が注目されているpoly-(ADP-ribose)polymeraseの活性を調節する可能性が強く示唆された。 臨床において,透析治療に由来する低栄養が炎症やアテローム疾患の引き金になることから,今後,本機構を利用した新たな炎症制御法の開発が期待できる。
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