研究概要 |
アルブミンプロモーター下にホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)の構成成分のひとつであるp110αの変異型が発現されるp110αトランスジェニックマウスを作成し、4、24週、52週、70週齢での肝組織像や生化学的データを検討した。4週齢で肝腫大と脂肪変性、ALTの上昇(ALT:59.6±6vs157±47 IU/L)を認めた。さらに52週齢では95%のマウスに腫瘍形成が認められ、病理学的には脂肪が腫瘍内に充満する腺腫であった。70週齢では全てのマウスに腫瘍形成を認めたが、肝癌の発生は5%程度しか認めなかった。PCNA染色ではp110αトランスジェニックマウスに肝細胞の増殖亢進が認められ(0.1±0.07%vs1.1±0.70%)、Akt, ERK, p38 MAPKのリン酸化が4週齢で認められた。PI3K-Aktシグナルを負に制御するPTEN(phosphatase and tensin homolog)の肝細胞特異的ノックアウトマウスでは、NASH類似病変から発癌をきたすことが報告されている。さらに乳腺特異的PTENノックアウトマウスでは乳癌が発生するものの、Aktを恒常発現させたトランスジェニックマウスでは腫瘍形成は認めないことが知られており、PTENのAkt非依存的な機能による癌化への関与が示唆されている。我々が樹立したp110αトランスジェニックマウスでは肝細胞特異的PTENノックアウトマウス同様、脂肪性肝炎、腫瘍形成をきたすものの、癌化の頻度は有意に低かった。Aktの恒常的活性化のみでは腫瘍の形質転換には不十分である可能性があり、PTENとp110αの肝発癌における役割が異なることが示唆された。 一方近年Akt1遺伝子に、大腸癌で約6.0%の遺伝子変異を認めることが報告され(Carpten, et. al. Nature 2007)、肝癌臨床検体での検討も行ったが変異は認めなかった。
|