研究概要 |
肝細胞がんは既存の治療法のみで根治することは不十分であるため,肝発がんのメカニズムを解明し新たな治療法を確立することが急務となっている。近年,各種癌におけるストレス蛋白質(heat shock protein;HSP)の発現量と予後の関連性が報告されHSPが腫瘍の増殖と転移に関与しているこが推察されるに至り,HSPが癌治療における新たな標的として期待されている。既に私は48例の肝細胞がんの患者の手術標本を解析した結果,リン酸化HSP27の発現が低い程,肝がんのステージが進行していることを見いだし,HSP27のリン酸化が肝臓がんの病態と深く関わることを世界で初めて明らかにした。 今回私は,低分子量HSPの一つであるHSP20に着目し,ヒト肝細胞がん摘出標本を用いて,腫瘍部およびその周囲の非腫瘍部における発現レベルを解析した。さらにHSP20発現レベルとHSP27のリン酸化レベルとの相関関係についても検討した,その結果,HSP20は肝細包がん患者の全症例において,腫瘍部,非腫瘍部ともに認められ,その発現レベルは,腫瘍部において非腫瘍部に比し低下していた。腫瘍部におけるHSP20の発現レベルは,腫瘍の進展(腫瘍径,脈管浸潤の有無,およびINM分類)に伴い低下していた。HSP20の発現レベルとSer-15のリン酸化HSP27のレベルとの間には有意な正の相関(r=0.505)を認めた。がん細胞におけるHSP20ならびにリン酸化HSP27の機能は明らかでは無い共にα-crystallin familyに属し,ヘテロ多量体を形成しうる両者は,肝細胞がんの進行に重要な役割を有する可能性が示唆された。 私は,肝細胞がん患者の腫瘍部におけるHSP20発現レベルの低下が,腫瘍の進展と相関していることを示した。以上の知見から,肝細胞がん組織中におけるHSP20が,腫瘍の進展に対し抑制的な役割を果たす可能性が示唆された。
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