研究概要 |
研究代表者は,ケモカインの中でも,フラクタルカインによるマクロファージLPS応答の修飾のメカニズムについて,フラクタルカインがその濃度により,異なるシグナルを伝達し,炎症応答シグナルの方向性を制御していることを見い出した。炎症時および定常状態のマクロファージに対するフラクタルカインの作用,シグナルの誘導を検討するため,ナイーブなマクロファージとして,マウス骨髄より分化させたマクロファージ様細胞,およびマクロファージ細胞株RAW264.7細胞を用い,生理的レベルの濃度として,低濃度のフラクタルカイン,炎症時の組織局所における濃度を想定した,高濃度のフラクタルカインを作用させ,どのような因子を誘導してくるのか,また,マクロファージをLPS刺激し,炎症の指標としての,TNF-αの産生をどのように変化させるのかについて,生化学的,分子生物学的解析を行った。その結果,低濃度フラクタルカインにより,フラクタルカイン-15dPGJ2-PPAR-γの経路を通じた炎症制御が誘導される一方で,高濃度のフラクタルカインは,向炎症の鍵となる,サイトカイン,IL-23を誘導してくることを明らかにした。 さらに,同一ケモカインにより,このような異なる作用が生じることについて検討するため,ケモカイン受容体を介する挙動に焦点を当て,解析を行った。フラクタルカインの受容体である,CX3CR1に対する中和抗体を用い,CX3CR1の機能を抑制した後にフラクタルカインを作用させたところ,フラクタルカインにより誘導されてくる炎症性,抗炎症性の因子は,フラクタルカイン受容体を介して誘導されてくる機能であることが明らかとなった。 本研究は,フラクタルカインによるマクロファージLPS応答の修飾メカニズムを初めて明らかにしたのみならず,フラクタルカインにより誘導される炎症制御が,局所の微小環境の恒常性に重要である可能性を提示した点でも意義があり,その成果は本平成19年度に国際雑誌に発表,掲載された。
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