研究概要 |
これまでに我々は,protein transduction domain(R9-PTD)を含有する融合蛋白抗原を導入した樹状細胞が,従来の方法に比べ強力な抗腫瘍効果を示す事を,OVAをモデル抗原とするEG.7腫瘍を用いて解析した。一方当教室の猪爪らはSEREX法により,悪性黒色腫患者血清中の新たな腫瘍関連抗原としてFCRL(Fc receptor-like)を同定し,この分子が悪性黒色腫,B細胞リンパ腫に対するワクチン療法の標的抗原として理想的な分子であることを示した。今回我々はmurine FCRLA(mFCRL)蛋白にR9-PTDを含有する融合蛋白質を精製し,その蛋白を導入した樹状細胞を用いてマウスB細胞リンパ腫(A20)に対する抗腫瘍ワクチン効果を解析した。まずR9-PTDの下流にmultiple clone siteを有するplasmidにmFCRLの全長cDNAを挿入し,R9含有mFCRL plasmidを作製し,作製したplasmidを大腸菌に導入し融合蛋白(R9-PTD-FCRL)を精製した。R9-PTD-FCRLが効率に骨髄由来樹状細胞内に導入される事は免疫組織染色で確認した。このR9-PTD-FCRLを導入した樹状細胞で免疫したマウスは,R9-PTDを含有しないFCRL群と比べ強いCTL活性を誘導し,実際にマウスB細胞リンパ腫(A20)を皮内に接種する28日および14日前にこの樹状細胞で免疫したマウスは,R9-PTDを含有しないFCRL群と比べ有意に腫瘍の増大を抑制した。その効果はCTL活性との間に正の相関が認められた。一方FCRLは正常の脾臓やmelanocyteにも発現する事がこれまでに報告されているが,脾臓のリンパ球分画および血清のIgGレベル,また皮膚melanocyteの数に明らかな異常は認めなかった。我々の提唱するR9-PTD含有蛋白抗原を用いる樹状細胞ワクチンは以下に示す特徴を有する。(1)蛋白抗原は抗原提示細胞と共培養するだけで迅速かつ高率に細胞内に導入される。(2)外来抗原がMHC-Class I上に抗原提示されるため,CTL活性を誘導できる。(3)R9-PTDの下流の蛋白抗原の選択により腫瘍ワクチンのみならず,感染症ワクチンなどより広い分野への応用が可能である。また,今回の研究により本法は腫瘍の自己抗原に対してもワクチン効果を示す事が証明され,本法が臨床応用可能なワクチン療法であると考える。
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