研究概要 |
進行胃癌の再発で腹膜播種の頻度は高く,その予後は不良である.手術中に腹膜再発の可能性を予測できれば,術中・術後の治療にきわめて有用な情報をもたらすことになる.術中の腹腔洗浄細胞診は腹水中の癌細胞を検出する有用な検査であるが,偽陰性も少なからず経験し,その検出率は満足できるものではない.本研究では,胃癌患者の腹腔洗浄細胞診材料において,がん細胞が表出しているaberrant antigenであるmaspinを標的とした術中迅速診断法の開発とその自動化を行い,臨床応用の妥当性を検証した.蛍光抗体直接法による検査の自動化に成功した.胃癌100例での腹水材料の解析では,maspin陽性と判定された症例は,stage IVの3例のみであった.3例の陽性細胞カウント数は,29/1000,16/1000,8/1000であった.原発巣と腹水中の腫瘍細胞に関する免疫染色動態は,良く相関していた(p<0.05).また細胞診の診断結果との比較では,感度は67%,特異度は99%,偽陰性率は33%,偽陽性率1%であった.偽陽性と判定された症例の免疫染色切片で細胞を特定した後,再度パパニコロ染色を行い,陽性細胞は腫瘍細胞であることが判明した.偽陰性と判定された症例での免疫染色は染色性不良であり,評価不可能であった.解析後,最長2年が経過し,腹水陽性症例は3例全てで癌性腹膜炎状態が生じた.陰性例では腹膜播種状を確認できていない.今後十分なfollow-upの上,再発形式の検討から本検査の妥当性を検証する必要があるものの,本研究で開発したaberrant antigenを指標とした迅速診断法は胃癌治療の有用な検査手段となる可能性が示唆された.
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