研究概要 |
腹部や骨盤外科領域(消火器外科、泌尿器外科、婦人科外科)においては、術後の患者QOL向上のために、可能な限り自律神経温存術を施行してきたが、心臓外科領域においては、術式の困難さや他の優先事項などから未だに自律神経温存術は採用されていない。特に、心臓移植は絶対的に貴重なものであることから、その機会を最大限に利用したい。今後、その術式が見直されるときには、心臓自律神経系の温存術が施行されることが予想される。その際に、解剖学的基礎資料が必要になることはいうまでもなく、そのための解剖学的評価と提案を行うことが、研究の目的である。 今年度は、特にヒトの心臓周囲の大血管が変異するする際に、心臓自律神経系がどのように変化するか、について詳細に解析した。その結果、従来の定説(大血管の発生学的な上下の変動に合わせ、心臓自律神経系も上下にシフトする)とは異なり、新知見(上下にシフトするのではなく、通常の心臓自律神経系の配置に加え、新たに形成や新生された血管に伴行する心臓神経路が形成される)を得て、論文としてまとめることができた(Auton. Neurol., 2007)。 また、これまでヒトの機能的評価をする目的で、実験動物を利用した実験医学的研究報告が多数認めらる。しかし、実際にはこれらの実験動物からヒトへいたる過程には解剖学的な大きな差があり、これちの結果をそのままヒトへと当てはまることは難しい。そこで、本年度後半からは、これらの差を埋めるために、心臓自律神経系の進化比較解剖学的解析に着手した。その一部を論文としてまとめた(J. Morphol., 2007)。この進化比較解剖学的解析は、来年度も行っていく予定である。
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