研究概要 |
本年度の成果は以下の通り. 1.曲面のホモロジー同境の理論の応用として,閉3次元多様体に対し,open book genus, homology cylinder genusと呼ぶ種数不変量を定義し,その基本的性質をまとめた.とくに,後者については,閉3次元多様体上のtorsion linking formやクラスパー手術の理論,曲面の写像類群とそのホモロジー表現などとの関連を明らかにし,1次ホモロジー群がねじれをもたないとき や2元以下で生成されるときなどの場合の具体的な計算を行った.なお,homology cylinder genusが1となるものについては,古典的に知られているSL(2,Z)の共役類分解と関連があり,それを用いることで,いくつかの非自明な値をもつ例を構成することができた.今後,計算を進めていくことで,数論的な対象とのより深い結びつきが期待される. 2.非可換Alexander不変量の計算機による直接的計算の実現に向けて,これまでに作成したプログラムの見直しを行った.とくに,桐生裕介氏の協力の下,数式処理の研究集会に参加し講演を行うことなどを通じ,新たな視点を入れることができたが,一方で,直接的計算の実現に向けては,更なるアルゴリズムの改良を中心とした研究が必要であるということもわかった. 3.非可換Alexander不変量の理論の研究の中で,組みひもの一般化であるstring linkに対する応用が得られた.とくに,string linkのモノイド上の整数値準同型の無限列を構成し,その非自明性と一次独立性を示した.具体的な計算にっいても2で述べたプログラムを部分的に用いることにより,いくつかの例について計算を行うことができた.
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